看病






ノボリの傍らに寄り添う影がひとつあった。それはノボリ共々動かない。
部屋の中で動いているのは時計の針だけだった。体調を崩してしまったノボリは医者にかかって薬を受け取ったあと、ベッドで日中をふいにしていた。連日地上では最高気温が上塗りされていくなかで、ノボリは自分が高熱を出して倒れようとは夢にも思わない。
ノボリの穏やかな寝息とゆるくかけられた空調の音だけが部屋を満たす。先ほどからノボリの枕元に鎮座する彼女はノボリの窮状をただ気遣わしげに見遣っていた。彼女は前脚の小さなはさみでノボリの額に触れる。熱を帯びた肌の上を、甲殻に包まれたそれがゆっくりと滑り落ちていく。前脚に伝わる熱量に彼女は驚いて、その住み家ごと身じろいだけれど、小さな身体ではベッドをきしませることはなかった。
彼女は、かつて寝込んだクダリにノボリがしてやっていたように、熱っぽい額へ冷たい手を当てる。この人もよく、周囲の気温がぐんぐん上がるこの時期にこうして体調を崩すのだ。彼女は主人たち双子のことを思い出して、楽しい心持になった。
「イシズマイ」
突然降りかかった言葉に、彼女は枕元から転げ落ちそうになった。危ないところを、布団のなかから伸びてきた優しい手が掬いとめる。
「ありがとうございます、貴女は、冷たくて、気持ちがいい」
主人の言葉に彼女は自分の体温がすこし上がるのを感じた。



20130714