もしもわたしにあるじに通ずる言葉があれば、この空洞に秘めている劣情も燻ることなどないというのに。ああせめて人型であればもうすこし違っていたかもしれない、しかしわたしがこのドータクンで、ドーミラーでなかったらあるじと出会うこともなかったかもしれない、とあらぬ仮定を繰り返す。そんなわたしを見かねてかボールの外へ出るように、とあるじの声がかかる。
「何か良からぬことを考えているんでしょう」
 良からぬこと、良くないこと。わたしがあるじを思うのは良くないことなのだろうか。そんなことは断じてないはずだった。
「最近、集中力が落ちている。リーグ期間中くらいはバトルに集中しろ」
 あるじは語調を強めわたしを窘める。耳に痛い話でわたしは縮こまった。あるじの言うことはもっともである。ここのところ暇さえあればあるじのことを考えている、あるじもそれを知っているのだろう、四天王のポケモンがそんな体たらくではどこぞのガブリアスに笑われてしまう。わたしが倒れることはあってはならない。それはわたしの、ひいてはあるじの沽券である。
「驕るな」
 奢り、驕り。驕る平家久しからず、あるじの蔵書の一節を思い出す。
 全身で肯定を伝えれば、あるじはいつもの癖で眼鏡を直し、迷いのない真っ直ぐな視線で私を射抜いた。
「あなたは私のエースなんですから」
 その言葉こそわたしの至福。
  






ファナティック

20090522