親子ごっこ



 この男は時折ひどく甘えてみせる。私よりも年上のその男は弱かった。何がっていろいろと。
 不機嫌というその感情を彼は、見てくれに反して、シンプルに表現する。その捌け口の一環として私は彼のそばに居るのだ。捌け口といっては語弊があるのかも知れない、しかし私にはいい言葉が思い浮かばなかった(本ばかり読んでいる彼ならばきっとぴったりな言葉を言い当ててくれるだろう)。
 敢えて言葉にするならば。
 これは家族の真似事のようだった。これからの将来を彼と過ごすことになるのならば家族というのはあながち間違いでもないのだけれど、残念ながらお互いにそんな気はない、ただ、こんな風に彼をくるみ込むような形で腕を背へ回して抱きしめていると未だかつて味わったことのない母性、のようなものが胸のうちからこみ上げてくる気がした。
 子供にするにはあまりに大きすぎる男だけれど。
 彼に何を投影してこの状況をよしとするのかは分からない。私の背を掻き抱くその手が当たり前のようにそこにあるから、私もいつものように縦に長い彼をゆっくりと抱きしめるのだ。
 抱擁というのにはぎこちない私たちの姿は、世界中の何よりもおかしくて異質だった。



















20090124











カプセル


 主と同じ空間に居られることがわたしにとって何よりも至福だった。しかし私の出番はあまりない。それもそうだった。主は強いし、わたしの他のポケモンたちも十分に強い。わたしの番が巡ってくる前に、挑戦者たちは冷たい床へと倒れこんでしまうのだった。詰まらない。
 ボールの壁越しに見る主は大抵の場合で本を読んでいる。今もそうだ、くすんだ藍色のハードカバーを捲くる音がする。もしかしたらわたしよりもあの本のほうが、主と触れ合っている時間は長いのかもしれなかった。無生物の癖に。
 いっそ、その痩躯をこの身に閉じ込めてしまいたい。そうして真っ暗闇のわたしの中で、唯一わたしのこの心音を聞いていてさえくれればいい。
「それは困ります、真っ暗だったら本が読めませんから」
 ……おおう。
 主はボール越しで悪戯に笑った。



























20090125